特別養子縁組と普通養子縁組の比較:制度の具体的な違いと手続きの流れ
特別養子縁組と普通養子縁組、何が違うのか
養子縁組を検討される際、「特別養子縁組」と「普通養子縁組」という二つの制度があることをご存知の方もいらっしゃるでしょう。これらの制度は、どちらも子どもと法的な親子関係を結ぶためのものですが、その目的、手続き、成立後の法的な関係性において重要な違いがあります。
すでに養子縁組に関心をお持ちで、基本的な情報は集められている読者の方も、この二つの制度の具体的な違いについて、さらに深く知りたいとお考えかもしれません。この記事では、それぞれの制度の概要から、具体的な違い、手続きの流れ、そして検討すべきポイントについて解説いたします。ご自身の状況や希望に照らし合わせながら、どちらの制度が適切かを考える一助となれば幸いです。
特別養子縁組とは
特別養子縁組は、実の親子関係に近い、より強固な親子関係を築くことを目的とした制度です。特に、実親による養育が著しく困難または不適当であり、子どもにとって家庭で安定した養育を受けることが難しい場合に、新たな家庭を永続的に提供するために利用されます。
特別養子縁組の主な特徴
- 実親との法的な関係の解消: 養子縁組が成立すると、子どもと実親(生みの親)およびその血族との間の法的な親子関係は、原則として終了します。これにより、子どもは養親の戸籍に入り、実子と同じ立場で育てられることになります。
- 対象となる子どもの年齢: 原則として、審判を請求する際に15歳未満である子どもが対象となります。ただし、15歳に達する前から引き続き養親となる人に監護されている場合は、例外として15歳以上でも8週間以内に請求すれば認められることがあります。
- 手続き: 家庭裁判所の審判によって成立します。審判に至る前に、養親希望者による養育状況のテストケース(試験養育期間)が設けられることが一般的です。
- 親子関係の永続性: 原則として、一度成立した特別養子縁組は解消できません。
普通養子縁組とは
普通養子縁組は、新たな親子関係を法的に創設することを目的とした制度です。相続や扶養など、さまざまな目的で利用されます。特別養子縁組のように実親との関係を完全に解消するわけではありません。
普通養子縁組の主な特徴
- 実親との法的な関係の存続: 養子縁組が成立しても、子どもと実親およびその血族との間の法的な親子関係は存続します。養子縁組によって、養親との間にも新たな親子関係が加わるため、子どもは実親と養親の双方と二重の親子関係を持つことになります。
- 対象となる子どもの年齢: 原則として制限はありません。ただし、養子となる人が未成年である場合は、家庭裁判所の許可が必要です。
- 手続き: 養親と養子(養子となる人が15歳未満の場合は法定代理人)の合意に基づき、市区町村役場に届出をすることで成立します。未成年の養子の場合は家庭裁判所の許可が別途必要です。
- 親子関係の解消: 原則として、養親と養子の合意があれば離縁によって解消することが可能です。
特別養子縁組と普通養子縁組の具体的な比較
| 項目 | 特別養子縁組 | 普通養子縁組 | | :--------------------- | :------------------------------------------- | :----------------------------------------------- | | 目的 | 実親との関係を解消し、永続的な家庭を提供 | 新たな親子関係の創設(相続、扶養など) | | 実親との関係 | 原則として法的な関係は終了 | 法的な関係は存続(二重の親子関係となる) | | 対象年齢 | 原則15歳未満(例外あり) | 原則制限なし(未成年は家庭裁判所の許可が必要) | | 手続き | 家庭裁判所の審判 | 養親・養子の合意と市区町村への届出 | | 成立後の解消 | 原則として不可 | 養親・養子の合意により離縁可能 | | 戸籍の記載 | 養親の「長男」「長女」など実子と同様に記載 | 養親との続柄は「養子」「養女」と記載 | | 氏(姓) | 養親の氏を名乗る(原則) | 養親の氏を名乗る(原則) | | 相続権 | 養親の財産を相続する。実親の財産は原則相続しない | 養親と実親の双方の財産を相続する |
手続きの流れの概要
どちらの養子縁組制度を選択するかによって、手続きの流れは異なります。ここでは、一般的な流れの概要を説明します。
特別養子縁組の手続き(概要)
- 相談・情報収集: まずは児童相談所や民間のあっせん団体、弁護士などに相談し、情報収集を行います。
- 申請・申し出: 養親希望者として児童相談所などに申し出を行います。
- 研修・調査: 養親となるための研修を受けたり、家庭環境などの調査が行われたりします。
- 委託(試験養育期間): 養子候補となる子どもが紹介され、一定期間(通常6ヶ月以上)ともに生活し、養育が可能かを見極める試験養育が行われます。
- 家庭裁判所への請求: 試験養育を経て、養子縁組の意思が固まったら、家庭裁判所に特別養子縁組の審判を請求します。
- 家庭裁判所の審判: 家庭裁判所が、子どもの利益を最優先に考慮し、要件を満たしているかなどを審理します。必要に応じて、実親の同意確認や児童相談所の意見なども考慮されます。
- 審判の確定・届出: 審判が確定すると、審判確定日から10日以内に市区町村役場に戸籍の届出を行います。
普通養子縁組の手続き(概要)
- 養子・養親の決定: 養親となる人と養子となる人の間で養子縁組についての合意を形成します。
- 未成年の養子の場合の手続き: 養子となる人が未成年である場合、養親となる人の住所地または当事者の本籍地の家庭裁判所に養子縁組許可の申立てを行い、許可を得る必要があります。
- 市区町村への届出: 養子縁組の合意、および未成年の養子の場合は家庭裁判所の許可書をもって、養親または養子の本籍地または住所地の市区町村役場に養子縁組届を提出します。
- 受理: 届出が受理されると、養子縁組が成立します。
注意点: 上記は一般的な流れであり、個別のケースや関係機関(児童相談所、民間あっせん団体、家庭裁判所)によって手続きの詳細や期間は異なります。また、実親の同意や、子どもの年齢によっては本人の同意が必要となる場合があります。
どちらの制度を選ぶか検討する際のポイント
特別養子縁組と普通養子縁組のどちらを選択するかは、何を目的とするか、どのような親子関係を望むかによって異なります。
- 子どもの安定した永続的な養育環境を最優先したい場合: 実親との法的な関係を断ち切り、実子と同様の立場で育てたいと考える場合は、特別養子縁組がより適している可能性があります。
- 実親との関係も維持しつつ、新たな親子関係を築きたい場合: 実親との関係を完全に解消することを望まず、養親としての関係も築きたい場合は、普通養子縁組が考えられます。ただし、これは実親や関係者の意向も重要です。
- 年齢や状況: 対象となる子どもの年齢や、すでに実親との関係性が確立しているかどうかなど、子どもの状況によっても適した制度が異なります。
どちらの制度についても、メリットとデメリット、そして法的な意味合いを十分に理解した上で、慎重に検討することが重要です。
まとめ
特別養子縁組と普通養子縁組は、どちらも子どもに家庭を提供する素晴らしい制度ですが、その目的や法的な効果には大きな違いがあります。特別養子縁組は実親子関係の樹立を、普通養子縁組は新たな親子関係の創設を主眼としています。
ご自身の希望や状況、そして最も重要な「子どもの幸せ」を考慮しながら、どちらの制度がより適しているかを検討してください。判断に迷う場合や、さらに詳しい情報が必要な場合は、お近くの児童相談所、民間の養子あっせん団体、または弁護士などの専門家にご相談されることを強くお勧めします。これらの窓口では、個別の状況に応じた具体的なアドバイスや支援を受けることができます。