「親族里親」制度とは?対象、要件、手続きの流れ、経済的支援の全て
はじめに:親族里親制度への関心をお持ちの方へ
ご家族や親族のお子さんを養育する必要が生じ、里親制度、特に「親族里親」について関心をお持ちのことと存じます。親族里親制度は、虐待やその他の事情により実親が子どもを養育できない場合に、親族が代わって養育を担う公的な制度です。
里親制度にはいくつかの種類がありますが、親族里親は、すでに血縁や姻戚関係がある方が対象となる点で特徴があります。しかし、その制度の具体的な内容、どのような場合に認定されるのか、手続きはどのように進むのか、そして経済的な支援はどの程度受けられるのかなど、詳しい情報については、まだ十分な情報が得られていないと感じている方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、「親族里親」制度に焦点を当て、その概要、対象となる要件、認定までの具体的な手続きの流れ、そして受けられる経済的支援について、詳しく解説いたします。この記事を通して、親族里親制度への理解を深め、今後の検討や手続きを進める上での一助となれば幸いです。
親族里親制度とは
親族里親制度は、児童福祉法に基づき、保護者の死亡、行方不明、拘禁、疾病、経済的困窮などの理由により、保護者がその児童を養育することができないか、または適切でないと認められる場合に、その児童の祖父母、兄弟姉妹、おじ、おばなどの親族が養育することを支援するための制度です。
この制度の目的は、子どもにとって慣れ親しんだ環境や関係性の中で生活を続けることを可能にし、子どもの生活の安定を図ることです。特に、血縁関係のある親族による養育は、子どもの安心感や愛着形成において大きなメリットがあるとされています。
親族里親として認定されることで、公的な支援(経済的支援や相談支援など)を受けながら、子どもを養育することが可能になります。これは、親族が単に子どもを預かるのではなく、公的な制度の後ろ盾を得て、より安定した養育環境を提供することを意味します。
親族里親になるための対象者と要件
親族里親として認定されるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。これらの要件は、子どもにとって安全で適切な養育環境を提供できるかを判断するために設けられています。
対象となる方(預かる側)の要件
親族里親として認定される主な対象者は、養育を必要とする子どもの以下の親族です。
- 祖父母
- 兄弟姉妹(ただし、養育者として適切と判断される年齢であること)
- おじ、おば
これらの親族であっても、認定には以下の一般的な里親の要件に準じた基準が適用されます。
- 心身ともに健全であること: 子どもを養育するための健康状態である必要があります。
- 経済的に困窮していないこと: 里親手当等の公的支援はありますが、それだけに頼るのではなく、安定した生計を営むことができる必要があります。
- 児童の養育について理解と熱意があること: 里親制度や子どもの養育について十分に理解し、積極的に取り組む意欲があることが求められます。
- 居住環境が適切であること: 子どもが安全かつ快適に生活できる住環境が整っている必要があります。
- 同居する家族全員が里親となることに同意していること: 同居する家族の理解と協力は、円滑な養育のために不可欠です。
- 特定の欠格事由に該当しないこと: 過去に児童虐待や犯罪行為など、里親として不適格と判断される事由がないこと。
親族里親の場合、特に「児童との関係性」が重視されますが、一般的な里親と同様に、養育能力や環境に関する総合的な審査が行われます。
対象となる子ども(預けられる側)の要件
親族里親制度の対象となる子どもは、原則として以下のいずれかに該当する子どもです。
- 保護者の死亡、行方不明、拘禁、疾病、経済的困窮などの理由により、家庭での養育が困難または不適切な状況にある子ども。
- 児童相談所により保護が必要と判断された子ども。
これらの子どもが、その親族によって養育される場合に、親族里親制度の対象となり得ます。
親族里親認定までの手続きの流れ
親族里親として認定されるまでの手続きは、一般的な里親認定の手続きと同様に、いくつかのステップを経て進められます。具体的な流れや必要な書類は、お住まいの自治体によって若干異なる場合がありますが、ここでは一般的なステップをご紹介します。
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相談: まずはお住まいの地域の児童相談所、または自治体の里親制度担当窓口に相談します。親族里親を検討している旨を伝え、制度の詳細や手続きについて説明を受けます。この段階で、子どもやご自身の状況を伝え、親族里親の対象となる可能性や今後の見通しについて話し合います。
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申請: 相談後、親族里親として認定を希望する場合、申請書を提出します。申請には、家族構成、健康状態、収入、住居に関する情報などを記載した書類の提出が求められます。住民票、所得証明書、健康診断書などの添付が必要になることが一般的です。
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研修: 里親として必要な知識やスキルを習得するための研修への参加が求められます。親族里親の場合、一般の里親研修とは別の、より基礎的な内容や、親族間の養育に特化した内容の研修が用意されていることがあります。研修では、子どもの心理、権利擁護、具体的な養育方法などについて学びます。
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家庭訪問・面談: 児童相談所の担当職員や、里親制度を委託されているNPOなどの職員による家庭訪問と面談が行われます。家庭訪問では、子どもの生活環境として適切か、安全な住まいであるかなどが確認されます。面談では、里親になりたい理由、養育に関する考え、家族の協力体制などについて、申請者や同居家族から詳しく聞き取りが行われます。
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審査: 提出された書類、研修への参加状況、家庭訪問や面談の結果などを総合的に踏まえ、里親認定の要件を満たしているかどうかの審査が行われます。
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認定: 審査の結果、里親として適当と判断されると、都道府県知事や政令指定都市の長の認定を受け、親族里親として登録されます。認定書が交付され、正式に親族里親として子どもを養育できるようになります。
手続きの期間は、申請者の状況や自治体の体制によって異なりますが、相談から認定まで数ヶ月から半年程度を要することが一般的です。スムーズに進む場合もあれば、必要な書類の準備や研修日程の調整などに時間がかかる場合もあります。
親族里親が受けられる経済的支援
親族里親として子どもを養育するにあたっては、経済的な支援が提供されます。これは、里親が子どもの養育にかかる費用の一部を賄い、安定した養育環境を維持できるようにするためです。親族里親が受けられる主な経済的支援は以下の通りです。
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里親手当: 里親が子どもを養育するために必要な経費の一部として支給される手当です。金額は国で基準が定められていますが、自治体によって上乗せがある場合もあります。この手当は、食費、衣料費、教育費などの子どもの日常生活にかかる費用に充てられます。
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養育費: 子どもを養育するために具体的にかかる費用(例:学校教育費、医療費、その他養育に必要な経費など)について、実費またはそれに準ずる額が支給される場合があります。里親手当と合わせて、子どもの養育に必要な費用をサポートします。
これらの経済的支援の具体的な金額や支給要件については、お住まいの自治体の制度によって詳細が異なります。また、子どもの年齢や養育状況(例:医療的ケアが必要な場合など)によって、追加的な支援が受けられる場合もあります。
経済的な支援は、親族が自身の経済状況だけで子どもを養育することの負担を軽減し、子どもが必要とするケアや教育を十分に提供できるよう後押しする重要な要素です。具体的な支給内容や申請方法については、必ず事前に担当の児童相談所や自治体窓口に確認するようにしてください。
親族里親になる上での留意点と相談先
親族里親として子どもを養育することは、子どもにとって安心できる環境を提供する一方で、親族ならではの難しさや留意点も存在します。
- 親族間の関係性: 実親との関係性が残る中で養育を行うため、連絡調整や子どもとの面会、養育方針などを巡って親族間で感情的な難しさや意見の相違が生じる可能性があります。
- 子どもの心のケア: 子どもは実親と離れて暮らすことになった背景に、様々な経験(虐待、ネグレクト、貧困など)を抱えている場合があります。親族という近い関係であっても、専門的な視点からのケアやサポートが必要となることがあります。
- 実親との適切な距離感: 子どもの安心のためには実親との関係調整も重要ですが、子どもへの影響を考慮し、適切な距離感を保つことが求められます。
このような課題に直面した場合や、日々の養育で悩んだ場合には、一人で抱え込まず、必ず相談機関を利用することが重要です。
主な相談先
- 児童相談所: 子どもの福祉に関する専門機関であり、親族里親制度に関する相談、手続きの支援、子どもや里親への専門的な相談支援(心理士によるカウンセリングなど)を提供しています。
- 自治体の里親制度担当窓口: 里親制度全般に関する情報提供や相談を受け付けています。
- 里親支援機関(NPO等): 里親経験者によるピアサポート、研修、個別相談など、実践的な支援を提供している団体があります。
親族里親として認定された後も、子どもが安定して成長していけるよう、これらの機関と連携し、必要な支援を積極的に活用していくことが大切です。
まとめ:親族里親という選択を検討される方へ
この記事では、親族里親制度の概要から、対象者、要件、認定手続きの流れ、そして経済的支援に至るまで、制度の具体的な内容を解説しました。親族里親は、血縁・姻戚関係のある方が子どもを養育することで、子どもの安心や安定を育む非常に価値のある制度です。
しかし、単に子どもを預かるだけでなく、公的な制度として認定を受けることで、子どもへの支援だけでなく、養育する側である親族も必要なサポートを得ながら、より安定的に子どもを育てていくことが可能になります。
親族里親になるという選択は、お子さんにとって、そしてご家族にとって、大きな変化と責任を伴う決断です。制度の理解、手続き、そして養育上の課題など、様々な疑問や不安があることと存じます。
一歩踏み出すためには、まずはお住まいの地域の児童相談所や里親制度担当窓口に相談することをお勧めします。専門の職員が、個別の状況を踏まえ、制度についてさらに詳しく説明し、今後の進め方について具体的なアドバイスを提供してくれます。
この記事が、親族里親制度についてより深く理解し、お子さんのために最善の道を検討されるための一助となれば幸いです。